木のむら五木

木のむら五木
木のむら五木MOVIE

溝口さんの美林

ていねいで繊細な山での仕事ぶりは、五木村森林組合の中でも
いちばんと誰もが認める、通称「大将」と慕われる人、溝口さん。
小鶴地区に代々受け継ぐ山林で、奥様とともに寸暇を惜しんでは
日々雑木の人工林づくりにいそしむ「美林家」でもある。

五木村最大集落の頭地地区から、ねむの木街道を車で走ること約20分、
せらせらと澄んだ流れの五木小川にかかる小さな橋を山道に入ると、
両脇には人の頭を越えるぐらいのシャクナゲが群生していた。
季節が冬で、しかもよりによって雪空であることが惜しい、
開花時期だったら、さぞやたくさんの花が見られたことだろう。
ほどなく先に、溝口さんの山小屋が見えてきた─

五木村地図 - 小鶴地区

台風で山が15haからやられましてな、杉桧の林ではどうにもならんので自然の木で山を作ろう思ったとです。

確か25年ぐらい前だったですか、台風で壊滅的な被害に遭って、15ヘクタールからやられましてな、 杉や桧の人工林ばかりじゃどうにもならんばってん、山で自然に育つ木を植えたら、 山自身の力で山崩れを防いでくれると思って、色々と雑木を植えとっとです。

入り口のシャクナゲもそうだし、ケヤキやシャラノキ、ミズナラ、シロトネリとか、 だいたいは山に植わっとるもん持ってきたり、友達から提供してもらったもんです。 一本一本、ぜんぶ自分の手で植えましたな。木はその土地に合った植え方や育て方せんと、思うようにいかんですけんが。

毎日この山に来とりますね。山の手入れするのが生き甲斐ですけん。

森林組合で日々、林業の仕事ばしとりますが、だいたい毎朝と仕事帰りにはこの小屋ば寄ります。 毎日コツコツ手入れしていかんとすぐ山が荒れてしまうとです。 夏場なんか雑草払いを5回ぐらいやらんといかんですけん、20日置きぐらいにですね、けっこうキツかです。

雑草を刈ると、足元まで光が入るから、また新しい命が芽生えてくる。樹の下に種から芽が出て、赤ちゃんみたいで可愛いもんです。 自然の木は、モノは言わんが手をかけた分だけ姿形で答えてくるんです。 朝夕見回りながら「お前大きくなったね、お前も大きくなれよ」と声かけて回っとります(笑)。

イノシシがやって来て、よく苗木を食い荒らしていきます。

家で猟犬を五匹飼っとるんですが、ここに連れて来て散歩させないとストレスになるのか、抜け毛になりよるんです。犬にも森林浴の効果があるんですかな。今日みたいな雪の日でも、連れて来ると喜んでその辺を駆けまわっとります、家では寒い寒いと震えるくせに(笑)。

夏になると、夕方よくこの辺にイノシシが出没します。人が来ても最近のはあまり逃げよらんですね。 せっかく家内がユリの苗を植えたのに全部食べられてしまってね。

桧の苗木の方は鹿の被害が多かです。近年は組合の獣害対策でネットを張ってもらって保護して来たせいか、 多少は収まった感じですが…でもイノシシはどうしようもなかですね。あいつらはネットの下を掘って入ってくるんです。 銃を持って私も犬たちと狩りに行きますが、この山は林道の幅が広いので追い込む場所がなくて、なかなか仕留められんです。

最近の若いもんは昼休憩にスマホでゲームとかしよらすばってんが、私は一生持ちたくなかです。

自然は美しかですよ、五木は。そこに誇りを持たんと生きていけんです。

子供の頃は、五木小川の清流で好んで魚取りをしたもんです。五木に住んでる人は、 やっぱりこの里のせせらぎや紅葉といった自然が好きで、誇りを持っとると思います。

娯楽のないトコなんで家ではTVはよく見ます。ほとんど自然探訪モノ、名峰モノばかりですが。 日本のどっかの山村で一所懸命生きている人の姿を見ると、ワーっとなって、私たちも頑張らねばと思います。 また山のやり方(管理の仕方)で参考にすることもあっとです。 今度あのへんにモッコウバラを、ここにはヒメコブシを植えて、こっちには沢を通して…など、山いっぱい使った庭づくりみたいな感じで楽しんどります。

樹に対する愛情?そりゃあありますよ。

どうやってその木が伸びたいのか、何をして欲しいのか感じ取る。

山ではたくさんの木を育てとりますが、その一本一本に愛情が湧いて来るもんです。これはやっとる者にしか分からんでしょう。 だいたい私と家内で植えとる木は、自然に近ようなものばかりですが、木が育ちたいように、なるべく自然樹形で伸ばすやり方をしとります。 周りの木で傷つかんように不要な枝を落としたり、光が差すように除伐したり、木の姿形や樹勢なんかから何をして欲しいのかをよう観察するんです。

雑木の森林を手探りではじめて、とにかく早く大きくなれと育ててきましたが、今では方方で大きくなって逆に手入れに追われとります。これは嬉しかですね。

「私が代ではなく、子が代のために木を育てるんだ」と親父は言いよりました。先代から大きく育った樹々や山の暮らしを授かってきたように、私も未来のためにこの森林ば管理して、一生を終えることが出来たら、良かですな。
溝口さんの眼鏡 長年愛用してきたという溝口さんの眼鏡。
左のつるは耳かけ部分が折れ、
レンズはちょっとのことでかんたんに
外れてしまうほどガタついている。
「まだまだ使えますけん」
屈託なく笑った溝口さんの懐にまた戻った。

© 2016 - 五木村山村活性化協議会

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